鉄(Fe)の文字
栄養素シリーズ ① 鉄 | Column

貧血じゃないのに疲れる・だるい
「隠れ鉄不足」とフェリチンの話

健康相談NOZOMI 代表 山本淳

健康相談NOZOMI 代表 山本 淳

分子栄養学カウンセラー/バイタルファスティングマイスター

NPO法人オーソモレキュラー分子栄養医学協会の認定講師。自身も原因のわからない不調に悩んだ経験を持ち、お子さまから大人まで、健康や栄養に関わる相談に寄り添っています。

「健診で『貧血ではありません』と言われたのに、朝から体が重い」「しっかり寝ているのに、日中ずっとだるい」——そんな方へ。ヘモグロビンの数値が基準内でも、体の中の鉄の貯金(貯蔵鉄)が少なくなっていることがあります。この記事では、いわゆる「隠れ鉄不足」とフェリチンの見方、不足しやすい時期、食事での取り入れ方、処方される鉄剤の特徴、そしてサプリメントを選ぶときに知っておきたい注意点を、分子栄養学の視点でまとめました。栄養素シリーズの第1回です。

隠れ鉄不足とは

貧血(ヘモグロビンの低下)には至っていないものの、体に蓄えている鉄(貯蔵鉄・フェリチン)が減っている状態のことです。健診で「貧血ではありません」と言われても、だるさや疲れが出ることがあります。

「貧血ではありません」と言われたのに、疲れが取れない

健康診断で「異常なし」「貧血の心配はありません」と言われる。それなのに、朝起きるのがつらい、階段で息が上がる、夕方には集中力が切れる。こうした状態が続くと、「気のせいかな」「年齢のせいかな」と、自分の感覚のほうを疑ってしまいがちです。

けれども、健診で見ている「貧血」の項目と、鉄の貯蔵量は、必ずしも同じではありません。数値上は貧血でなくても、鉄が足りなくなりかけている——そんな状態があることを、まず知っておいてください。疲れやだるさは、「気持ちの問題」ではない可能性もあります。

こんなことはありませんか

  • 健診では異常なしなのに、疲れやすい・だるい
  • 朝なかなか起きられず、午前中は頭がぼんやりする
  • 階段や早歩きで、息切れや動悸を感じる
  • 立ちくらみがある、顔色が悪いと言われる
  • 抜け毛が増えた、爪がもろい・割れやすい
  • 氷をかじりたくなる、寒さに弱く手足が冷える

ヘモグロビンとフェリチンは別もの|「鉄の貯金」を見る

体の中の鉄は、大きく2つの場所に存在します。ひとつは、血液中で酸素を運んでいるヘモグロビン。もうひとつは、肝臓などに蓄えられている貯蔵鉄で、その量を反映する指標がフェリチンです。

たとえるなら、ヘモグロビンは「財布の中の現金」、フェリチンは「銀行の貯金」です。財布の中身は、貯金を切り崩している間は、ある程度まで保たれます。つまり、貯金が減っていても、財布の現金は基準内に見えることがあります。ヘモグロビンが下がってはじめて「貧血」と診断されるころには、貯金はすでに底をついている——これが隠れ鉄不足と呼ばれる状態です。

ヘモグロビンフェリチン
何を表すか血液中で酸素を運ぶ鉄体に蓄えている鉄(貯蔵鉄)
たとえ財布の中の現金銀行の貯金
健診の項目含まれる含まれないことが多い
減るタイミング貯蔵鉄が減ったあと先に減る
鉄が減っていくときの流れ(イメージ)
① 貯蔵鉄(フェリチン)が減る
ヘモグロビンは基準内のまま
健診では気づかれにくい段階
↓
② 体が使う鉄の供給が追いつかなくなる
疲れ・だるさなどのサインが出はじめる
↓
③ ヘモグロビンが下がる
ここで初めて「貧血」と判定される
①の段階で栄養面から整えはじめられると、
体の土台を保ちやすくなります。

フェリチンの数値について

フェリチンは、一般的な健康診断の項目に入っていないことが多く、追加で調べる形が一般的です。基準値の考え方は検査機関や見方によって異なり、「基準内」でも低めということがあります。また、体の中に炎症があると、フェリチンは高めに出ることがあります。そのため、鉄が足りていなくても、数値の上では足りているように見えることがあります。数値だけで自己判断せず、体調とあわせて見ることが大切です。

鉄が足りないときに出やすいサイン

鉄が不足したときの現れ方は、人によって違います。次のようなサインが、複数重なって現れることがあります。ただし、これらは鉄以外の要因でも起こるため、「当てはまるから鉄不足」と決めつけるものではありません。

疲れやすい・だるい Fatigue

十分に寝ても疲れが残る、夕方に急に力が抜ける。

よくある場面:午後の集中力低下

息切れ・動悸 Breath

階段や早歩きで息が上がる、ドキドキする。

よくある場面:駅の階段・急ぎ足

立ちくらみ・顔色 Dizziness

立ち上がったときのふらつき、顔色の薄さなど。

よくある場面:朝の起床時

抜け毛・爪の変化 Hair & Nails

髪のボリュームが減った、爪が割れやすい。

よくある場面:シャンプー時の抜け毛

冷え・寒がり Cold

手足が冷える、寒さを強く感じる。

よくある場面:冷房・冬の朝

気分の落ち込み・寝つきの悪さ Mood & Sleep

やる気が出ない、イライラしやすい、眠りが浅い。

関連記事:睡眠と栄養

頭痛・肩こり Headache

頭が重い、肩や首がこりやすい。

よくある場面:夕方・デスクワーク中

氷が欲しくなる・脚のむずむず Cravings

氷をガリガリかじりたくなる。夜、脚がむずむずして寝つけない。

よくある場面:就寝前

鉄は、体の中で何をしているのか

鉄と聞くと「貧血の栄養素」というイメージが強いかもしれません。けれども実際には、体のあちこちで働いています。

酸素を全身に運ぶ

赤血球の中のヘモグロビンは、鉄を材料にして酸素を全身へ届けます。鉄が足りないと、脳や筋肉への酸素の供給が追いつきにくくなり、疲れやすさや息切れとして感じられます。

筋肉の中で、酸素をためておく

筋肉には、ミオグロビンという鉄を含むたんぱく質があり、酸素をためておいて、体を動かすときに使います。鉄が足りないと、筋肉が使える酸素も減り、少し動いただけで疲れる、力が続かない、と感じやすくなります。

エネルギーをつくる

食べたものをエネルギーに変える工程(細胞の中のミトコンドリアの働き)にも、鉄は欠かせません。

肌や髪の材料づくりを支える

肌や髪、血管、骨の土台になるコラーゲンは、体の中でつくられるときに、鉄とビタミンCの両方を必要とします。抜け毛や爪の割れやすさ、肌の調子が気になるときに、鉄にも目を向けたいのはこのためです。

心の材料づくりにも関わる

セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の合成にも、鉄は補酵素として関わります。詳しくはこころの不調と栄養の関係もご覧ください。

鉄が不足しやすい背景

鉄は、日本人、とりわけ女性で不足しやすい栄養素のひとつです。「食べる量が足りない」だけでなく、いくつかの要因が重なって不足していきます。

出ていく量が多い Loss

月経や出産・授乳などで、鉄は失われやすくなります。

汗で失われる Sweat

鉄は汗からも少しずつ失われます。運動量が多い方や、汗をよくかく方は、そのぶん不足しやすくなります。

食事からの量が少ない Intake

食事量が少ない、肉や魚が少なく主食に偏っている、朝食を抜くなど。

ダイエット・食事制限 Diet

食事の量を減らしたり、肉や魚を控えたりすると、鉄もたんぱく質も一緒に減ってしまいます。

吸収されにくい Absorption

鉄の吸収には胃酸や腸の状態が関わり、とくに非ヘム鉄は、胃腸の働きが落ちていると取り込みにくくなります。

運ぶ材料が足りない Protein

鉄は、たんぱく質でできた運び屋や貯蔵庫と結びついて巡ります。たんぱく質不足も影響します。

ストレス・体内の炎症 Stress

強いストレスや体内の炎症が続くと、鉄の吸収や利用が落ちることがあります。

ほかの栄養素との連携 Team

ビタミンCなど、鉄の利用を助ける栄養素も必要です。

ここがポイント

鉄は「摂る量」だけでなく、「取り込めているか」「運べているか」まで含めて見ることが大切です。胃腸の状態が気になる方は、胃腸の不調を整える方法もあわせてご参考にしてください。

ライフステージによって、必要な鉄の量は変わる

同じ食事をしていても、時期によって、体が必要とする鉄の量は変わります。とくに次のような時期は、鉄が不足しやすいタイミングです。

乳幼児期
赤ちゃんは、お母さんから受け取った鉄を蓄えて生まれてきますが、生後6か月ごろから2歳ごろにかけて、その蓄えが少なくなっていきます。

思春期・成長期
体が大きくなる時期は、筋肉や血液の量も増えるため、多くの鉄が使われます。女の子は月経が始まり、出ていく鉄も増えます。部活動で運動量が多いと、さらに不足しやすくなります。

妊娠中・授乳中
お母さん自身の体に加えて、赤ちゃんの体や血液をつくる材料として、鉄が使われます。出産時の出血や授乳でも鉄は失われるため、出産後まで含めて不足しやすい時期です。

運動をしている方
汗で失われる鉄に加えて、筋肉で使われる鉄も増えます。走る運動では、着地の衝撃で赤血球が壊れることがあるともいわれています。

食事で鉄を取り入れるコツ

食品に含まれる鉄には、2つのタイプがあります。ヘム鉄は肉や魚の赤い部分に含まれ、体に吸収されやすいタイプ。非ヘム鉄は卵・大豆製品・野菜などに含まれ、ヘム鉄より吸収されにくいものの、ビタミンCやたんぱく質と一緒に摂ることで取り込みやすくなるといわれます。

主な食品に含まれる鉄の量を、1回に食べる量の目安でまとめました(数値は、文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の可食部100gあたりの値から計算)。

食品(目安量)鉄の量タイプ
豚レバー(50g)6.5mgヘム鉄を含む
鶏レバー(50g)4.5mgヘム鉄を含む
牛もも肉・赤身(和牛・50g)1.4mgヘム鉄を含む
かつお(60g)1.1mgヘム鉄を含む
あさり(30g)0.7mgヘム鉄を含む
しじみ(15g)1.2mgヘム鉄を含む
卵(M1個・50g)0.8mg非ヘム鉄
納豆(1パック・40g)1.3mg非ヘム鉄
木綿豆腐(1/3丁・100g)1.5mg非ヘム鉄
小松菜(1/3束・70g)2.0mg非ヘム鉄
ほうれん草(1/3束・70g)1.4mg非ヘム鉄

レバーは鉄が多い一方で、毎日食べるのは難しい食品です。赤身の肉や魚、あさりやしじみ、卵や大豆製品、青菜などを、毎日の食事に少しずつ組み合わせるのが、続けやすい取り入れ方です。

赤身の肉・魚を、食事の中心に置く

牛や豚の赤身、かつお・まぐろなどの赤身魚、あさり、レバーなどは、ヘム鉄を含む代表的な食品です。毎食手のひら1枚分を目安に、たんぱく質源をしっかり入れましょう。菓子パンや麺類だけで済ませず、主菜を先に食べることが、鉄とたんぱく質の両方を確保する近道です。ただし、肉が食べにくい方や、お腹が弱い方もいます。個人差があるため、体の状態に合わせて取り入れ方を選ぶことが大切です。

卵・大豆製品・野菜にビタミンCを添える

卵、豆腐や大豆製品、ほうれん草・小松菜などの非ヘム鉄は、ブロッコリー・パプリカ・柑橘などのビタミンCと一緒に摂ると取り込みやすくなるといわれます。主菜に野菜を一品添えるだけでも十分です。

食事で届きにくい分は、サプリメントで補う

鉄は、食事だけで体の貯蔵を満たすのに時間がかかることもある栄養素です。食事を土台にしながら、足りない分をサプリメントで補うこともできます。種類や量は人によって違うため、選ぶときのポイントを「鉄のサプリメントと、海外製サプリの注意点」にまとめています。

おさらい

食事のポイントは、①赤身の肉・魚を主菜に / ②卵・大豆製品・野菜にビタミンCを添える / ③足りない分はサプリメントで補う。食べ方や体質による個人差が大きいため、「これだけ食べれば大丈夫」という食品はありません。

処方される鉄剤の特徴と、吸収の話

貧血と診断されると、病院では鉄剤が処方されることが多くなります。「鉄を足せば解決」という単純な話ではない、という点を整理しておきます。

処方される鉄剤は、すべて「非ヘム鉄」

病院で処方される鉄剤(飲み薬)は、すべて「非ヘム鉄」というタイプです。もうひとつのタイプである「ヘム鉄」に比べると体に取り込まれにくく、飲んだ量のうち吸収されるのは一部にとどまります。ヘム鉄の処方薬はありません。

鉄剤(飲み薬)の副作用

鉄剤(飲み薬)の副作用として、吐き気、腹痛、食欲の低下、便秘や軟便が知られています。吸収されなかった鉄が腸に残り、粘膜を刺激することが一因です。こうした症状のために、服用を続けにくくなる方もいます。鉄は、量だけでなく、取り込まれ方や体への負担まで含めて考えることが大切です。

鉄のサプリメントと、海外製サプリの注意点

食事だけで鉄を補いきれないとき、サプリメントは心強い選択肢になります。月経のある方や、吸収力が落ちている方ほど、食事に加えて上手に取り入れる価値があります。ただ鉄は、選び方と量しだいで結果が大きく変わる栄養素です。サプリメントに使われる鉄にも種類があり、たとえばヘム鉄を使ったものは、非ヘム鉄とは別のルートで体に取り込まれ、胃腸への刺激が少ないとされます。効果的に、安全に活かすために知っておいてほしいことが2つあります。

① 鉄は、多すぎても体に負担がかかる

鉄は、体から積極的に排出する仕組みが限られている栄養素です。足りないときにしっかり補うことは大切ですが、必要以上に取り込み続けると、体に負担がかかることがあります。「疲れるから、とりあえず鉄」と自己判断で始めるのではなく、今の状態を確認したうえで、種類と量、期間を決めることが大切です。必要量は、月経の有無や食事内容、吸収力、ほかの栄養状態によって人それぞれ大きく違います。

② 個人輸入の海外製サプリメントには、別のリスクがある

インターネットで手軽に取り寄せられる海外製の鉄サプリメントについては、国民生活センターが2024年12月に注意を呼びかけています。海外の通信販売で購入した鉄サプリメントを長期間使い、鉄過剰症を発症した事例が報告され、調べた5銘柄では、1日あたりの鉄の量が、日本人の食事摂取基準の推奨量を大きく超えていました。

鉄のサプリメントでは、「アミノ酸キレート鉄」はおすすめしません。通常の鉄とは違うルートで取り込まれるため、体の中の鉄の量に応じた調節がききにくいと考えられています。アミノ酸キレート鉄を約4年間摂取した母と娘が、フェリチンが基準値の10倍前後になる鉄過剰症と診断された症例が報告されています。症状がないまま進むこともあります。

サプリメントに迷ったら

健康相談NOZOMIでは、品質と安全性に配慮したサプリメントを取り扱っています。「鉄が足りていないかも」と感じたときは、今の状態をお聞かせください。その方に合った種類や量まで、ご提案します。

よくある質問

貧血ではないのに、鉄が足りないことはありますか?

あります。血液中のヘモグロビンは、体内の貯蔵鉄が減っても、しばらくは基準内に保たれることがあります。貯蔵鉄の量を反映するのがフェリチンです。ヘモグロビンが基準内でも、フェリチンが低めの状態は「隠れ鉄不足」と呼ばれます。

フェリチンは、健康診断で調べられますか?

フェリチンは一般的な健康診断の項目には含まれていないことが多く、追加項目として調べる形が一般的です。基準値や、どの数値を目安にするかは検査機関や見方によって異なるため、数値だけで自己判断しないことが大切です。健康相談NOZOMIでは、食事内容や体調、サプリメントの使用状況を伺い、栄養の面からご提案しています。

病院で処方される鉄剤と、サプリメントは何が違いますか?

処方される鉄剤(飲み薬)はいずれも「非ヘム鉄」というタイプで、吸収率が低めで、副作用として吐き気や腹痛などが出る方もいます。サプリメントには、ヘム鉄など取り込まれ方の異なるタイプもあり、種類や量は状態によって選び方が変わります。

鉄のサプリメントは、飲んだほうがいいですか?

鉄は不足しても過剰になっても体に負担がかかる栄養素で、必要な種類や量は人によって大きく異なります。サプリメントは使い方とタイミングを選べば大きな助けになりますが、自己判断で始めるより、状態を分析したうえで選ぶことをおすすめします。健康相談NOZOMIでは、個別の状態に合わせてサプリメントの種類や量までご提案しています。

まとめ|数値に出る前の「貯金切れ」に気づく

この記事のポイント

  • 「貧血ではありません」と言われても、貯蔵鉄(フェリチン)が減っている「隠れ鉄不足」があります。
  • ヘモグロビンは財布の現金、フェリチンは銀行の貯金。貯金が減っているサインは、数値より先に、だるさや疲れとして現れることがあります。
  • 乳幼児期、思春期・成長期、妊娠中・授乳中、運動をしている方は、とくに鉄が不足しやすい時期です。
  • 食事を土台に、体の状態に合わせて、届きにくい分はサプリメントで補うこともできます。

なんとなく続く不調の裏に、鉄が隠れていないか。自己判断だけで進めず、今の状態を確認するところから始めてみてください。

※本記事は健康・栄養に関する一般的な情報提供を目的としたもので、効果を保証するものではなく、医療行為や診断に代わるものではありません。鉄不足による不調は、一般的な医療では「貧血ではありません」「様子を見ましょう」と言われがちで、なかなか解決の糸口が見つからないことも少なくありません。栄養と生活習慣の面から、体の土台を整えることで、できることがあります。症状が強い場合や急に悪化した場合、また服薬中の方は、安全のため、分子栄養学(オーソモレキュラー)に理解のある医療機関にもご相談のうえ、無理のない範囲で取り組んでください。
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